極域熱圏におけるオーロラ活動に伴う背景風と局所風の相互作用

*品川 裕之[1], 大山 伸一郎[2]

名古屋大学太陽地球環境研究所[1]
通信総合研究所[2]

Interaction between background flow and local winds associated with auroral activities in the polar thermosphere

*Hiroyuki Shinagawa[1] ,Shin-ichiro Oyama [2]
Solar-Terrestrial Environment Laboratory, Nagoya University[1]
Communications Research Laboratory[2]

Recent measurements of the thermosphere have suggested that extremely complicated small-scale wind systems are present in the auroral region. Detailed analyses of data obtained from the ground and satellites as well as high-resolution numerical simulation may give a clue to understanding mesoscale dynamics in the polar thermosphere. Our previous studies strongly suggest that local heating processes have significant influences on thermospheric dynamics in the auroral region. However, it is still not clear how the local thermospheric wind interacts with the global background flow. A two- dimensional high- resolution nonhydrostatic thermospheric model is used to investigate the interaction between local wind and large-scale background flow in the polar thermosphere.

 極域の熱圏は長年に亘って様々な研究がなされてきたが、近年 、地上や衛星からの観測技術が大きく向上し、オーロラ活動に伴 う熱圏ダイナミックスの詳細が明らかになってきた。 最近では、 ファブリ・ぺロー干渉計(FPI)、EISCATレーダー、全天カメラな どによる地上観測や、衛星観測のデータ、高精度のシミュレー ションモデルなどを総合的に用いることにより、極域熱圏のメソ スケールダイナミックスの解明の手がかりが 得られつつある。
 オーロラ加熱による熱圏変動に関して、これまでに我々が行っ た解析では、次のような結果が得られている。(1) 観測データか ら推定されるオーロラアークのジュール加熱によって10-20 m/s 程度の速度を持った熱圏鉛直風が励起され、それに伴った重力波 も生成される。ただし、一部のグループのFPI観測で報告されて いる50 m/s以上の大きな速度の鉛直風は、少なくとも局所的な 加熱だけでは生成されない。(2) オーロラアークで生成された と思われる波動が、少なくとも数100 km程度離れた場所にまで 伝搬している。この結果は、シミュレーションの結果とかなり よく一致する。(3) オーロラアークが高速で移動する場合、その 背後に鉛直風の波動構造が形成される。(4) 背景風がアークに よる加熱領域を通過する場合、アークの進行方向に対して後側 で鉛直風が振動する傾向がある。これは最近、Smith [2000]が示唆 した考えと基本的には同じものである。
 これらの結果は、オーロラ活動に伴う局所的な加熱が熱圏風系 に影響を与えている可能性を強く示唆している。しかし、グロー バルな熱圏・電離圏のダイナミックスに対して、局所的な熱圏風 系が実際にどの程度の影響を及ぼしているのかはまだ解明できて いない。前回の発表では、オーロラ領域の風系は、背景風と局所 風の単なる重ね合わせではないことを報告したが、このこともグ ローバル風と局所風の相互作用が存在していることを示して いる。
 我々はこれまで、鉛直方向の運動量方程式も含めた2次元非静 力学平衡熱圏電離圏モデルを用いて極域の熱圏を調べてきたが、 今回、グローバル背景風と局所風系の相互作用を詳しく調べるため に、高精度を保ちつつ水平方向の領域を大きく広げた。本講演で は、このモデルを用いて、極域熱圏における背景風とオーロラ 活動に伴う局所風の相互作用を様々なケースのもとで調べた結果 を報告する。また、従来用いられてきた静力学平衡を仮定した 熱圏大循環モデルが、オーロラ領域の熱圏擾乱の解析でどの程度 の精度があるかの検証も行っており、これについても結果を 報告する。