彗星周辺でのイオンピックアップ過程において励起される波動について
*加藤 雄人[1], 小野 高幸[1], 大家 寛[2]
東北大学理学研究科地球物理学専攻[1]
福井工業大学[2]
Generation of the Plasma Waves for the case of the Ion Pick-up Process in the Coma Regions of Comet
*Yuto Katoh[1]
,Takayuki Ono [1],Hiroshi Oya [2]
Planetary Plasma Physics Laboratory, Tohoku University.[1]
Fukui University of Technology[2]
A hybrid code computer simulation of an ion pickup process in
the Halley comet coma region reveals that the ion pickup process
consists of two stages of wave particle interactions. The first
stage generates a small amplitude waves. The second stage a large
amplitude MHD waves are generated associating the thermalization
of input ion beams. To understand the generation mechanism of
the small amplitude waves and its role on the growth of the large
amplitude MHD waves,we studied the plasma instability based on
a linear theory to compare the case of heavy ion beam and light
ion beam. We evaluate wave length 140 V_A/W_p excited by beam
instability of heavy ion beam.In this paper, the results of plasma
instability due to cometary ions with mass as 4 mp ( mp is the
mass of proton ) for the case of light ion beam. The dispersion
relation under the present beam type instability also shows unstable
wave. Wave length of this wave is 80 V_A/W_p, which is consistent
with waves excited in early stage of simulation under the light
cometary ion beam condition.
無磁場天体からの大気流出過程において重要なメカニズムとして考えられているイオンピックアップ過程については、これまでにも多くの研究が行なわれているが、イオン加速に関する素過程については未解決の問題が多く残されている。本研究では、イオンピックアップの典型例としてハレー彗星の彗星核から700万km離れた位置に存在するComet-Coma領域で見られたピックアップ現象を取り上げ、イオンの沿磁力線方向への運動の変化に深く関わる波動粒子相互作用について特に着目し、Warm Plasma近似による線形解析、ハイブリッドコードによる計算機実験、さらにHot Plasmaに対する線形解析を用いた研究が進められている。 1986年のハレー彗星直接探査国際協同観測(IHW)の結果によれば、Comet-Coma領域においては、太陽風プロトン(5個/cc)の1/1000の密度を持って彗星起源の酸素イオンが存在しており、太陽風との相互作用を行なっている。電離によって生成された彗星イオンが持つ初速度(熱速度)は太陽風速度に比べて無視できる程小さいことから、太陽風に固定された系を用いてこの領域を考えると、彗星イオンは太陽風速度にほぼ等しい相対速度を持ったビームとして系の中に入射してくる状況となる。 これまでハイブリッドコードを用いた計算機実験の結果では、太陽風プラズマ中には彗星イオンのピックアップの初期段階でまず小振幅の波動が発生し、その後振幅の大きなMHD波が励起される。このMHD波動の成長とともに彗星起源のイオンが強い加速を受け、イオンピックアッププロセスが効果的に働く様子がとらえられている。このMHD波動は10^3 V_A/Ω_pの波長を持ち、伝播速度がアルフベン速度にほぼ等しいR-modeの波動であるが、先に行なわれたWarm Plasma近似を用いた線形解析ではこの波数領域には不安定現象が現れておらず、非線形波動粒子相互作用がこのMHD波動の励起に関わっている可能性が示されている。ここで、V_Aはアルフベン速度、Ω_pはプロトンのサイクロトロン周波数である。イオン加速に大きく影響を及ぼしている大振幅のMHD波の励起と成長のプロセスには、シミュレーションの初期段階で発生した小振幅の波動が重要な役割を担っていると考えられる。この小振幅の波動については、彗星イオンとして酸素イオンを取り扱った条件での彗星イオンビームを含むHot Plasmaの分散を求めての線形解析を行なった結果では、波長約140 V_A/Ω_p、周期42 Ω_p^-1において成長率が最大となる解が得られている。本論文では、ビームとして入射するイオンの質量を太陽風プロトンの4倍(ヘリウムイオンに相当)とした条件でのシミュレーション及び線形解析の結果と、酸素イオンを取り扱ったこれまでの結果とを比較検討することで、線形段階で生じる小振幅波動のMHD波の励起プロセスにおける関わりについて検討を行なった結果を報告する。 ビームイオンの質量をプロトンの4倍とした線形解析の結果、ビームと太陽風プロトンとの間の速度差に起因するビーム不安定により、波長約80V_A/Ω_p、周期19Ω_p^-1において成長率が最大となる解が得られた。この波動の成長率はビームイオンを酸素イオンとして行なわれた線形解析の結果に比べてひと桁程度大きいものであり、ビームイオンの質量を変えて行なわれたシミュレーションの結果に現れる小振幅波動のふるまいとも一致したものとなっている。シミュレーションの結果では酸素イオンを撮り扱った場合と同様に小振幅波動発生後、ビームの減速とともに強度が増大する振幅の大きな波動の励起が確認されたが、その励起までに要する時間および波動の波長が酸素イオンを取り扱った場合のほぼ1/4程度となる結果が示されている。すなわち、彗星イオンを強く加速するMHD波の励起の段階では、ビーム不安定の結果発生した小振幅波動が重要な役割を持っていると考えられる。シミュレーションの中では、この非線形波動粒子相互作用の様相が捉えられていることになり、この段階についての詳細な解析が必要とされている。