池田／響　

北大西洋民間航空路における窒素酸化物と凝結核の相関関係

講演予稿:
民間航空機の大部分を占める亜音速ジェット機は，高度約９−１２ｋｍの上部対流圏／下部成層圏(UT/LS)を主に航行している．この高度領域で航空機のエンジンから放出される窒素酸化物や二酸化炭素，エアロソル，炭化水素類などが，オゾン収支や気候変化に与える影響を評価するためのプロジェクトが近年盛んに行われている． 　それらのプロジェクトの一つに，1997年10月から11月にかけて北大西洋で行われたSONEX(Subsonic Assessment, Ozone and Nitrogen Oxide Experiment)がある．これは，航空機の往来が集中している北大西洋上空で航空機が窒素酸化物の分布やオゾン収支に与える影響を評価するのが目的であり，NASAのDC-8機に16の研究グループが測定器を搭載して観測を行った．我々のグループは，化学蛍光法を用いたNO,NOyの測定を行った． 　本研究では，SONEXで得られたデータのうち，主にNO,NOyと凝結核(CN)を用いて解析を行った．航空機のエンジンの排気中には，NOx,CNともに含まれている．今回の我々の観測では，航空機起源と思われるNOxとCN濃度のスパイクが見られた． 　初期解析の結果，UT/LSで観測されたデータを，オゾン混合比100ppbv以上を成層圏性，それ以下を対流圏性の空気塊として分けてみたところ，成層圏性の空気塊ではNOxとCN，NOx/NOyとCNの間にそれぞれ強い正の相関が見られた．その際，スパイクが見られたときと，スパイクが見られなかったときのデータポイントが大体同じ分布をしていることから，北大西洋航空路内におけるNOx,CNのバックグラウンド濃度は，航空機の影響を強く受けていると思われる．また，対流圏性の空気塊中では，これらの物質間の相関プロットは成層圏よりはばらつくものの，正の相関が見られた．これより，対流圏においても航空機起源の窒素酸化物とCNの影響があるものと思われる．

abstract:
Concentrations of many chemical species and atmospheric parameters, such as NO, NOy, condensation nuclei, ozone, etc. were measured during SONEX aircraft campaign, of which the purpose was to assess effects of air traffic within North Atlantic flight corridor(NAFC) on atmospheric environment. Within the NAFC, positive correlation between NOx and CN, NOx/NOy and CN were observed, especially in the stratospheric air mass. Here we defined stratospheric and tropospheric air masses as those with ozone mixing ratios higher and lower, respectively. This suggests that within the NAFC, NOx and CN levels in the lower stratosphere and upper troposphere were significantly impacted by air traffic.

キーワード:
窒素酸化物，凝結核，航空機，上部対流圏，下部成層圏

Keywords:
Nitrogen Oxides, Condensation Nuclei, Aircraft, Upper Troposphere, Lower Stratosphere