あけぼの衛星の巨大データベースを用いた
プラズマ波動現象の自動分類アルゴリズムの開発
*秋元 陽介[1], 笠原 禎也[1], 佐藤 亨[1]
京都大学大学院 情報学研究科[1]
Automatic classification of electromagnetic waves from enormous database obtained by Akebono
*Yosuke Akimoto[1]
,Yoshiya Kasahara [1],Toru Sato [1]
Graduate School of Informatics, Kyoto University[1]
In the present paper, we introduce new computational technique
for extracting the attributes of the plasma waves from enormous
scientific database of Akebono and classifying the plasma wave
phenomena automatically in a systematic way. In the algorithm,
we represent the wave phenomena using several key parameters
and apply a kind of cluster analysis to these key parameters
for the classification. We evaluated our technique using the
VLF wave data obtained from 1989 to 1992 by the Akebono satellite.
It was demonstrated that we could successfully identify the difference
between chorus and plasmaspheric hiss.
磁気圏で観測される様々な波動現象は、発生点から伝搬経路に沿っ
た領域の状態を反映しており、その発生、伝搬機構の解明は磁気圏
のマクロな物理を知る手がかりとなる。しかしこれらの波動現象は
太陽や地球磁場の活動などの様々な要因が複雑に関係する一方、一
点観測である衛星観測はその時間空間変化の把握が困難である。あ
けぼの衛星による長期観測データは地球物理現象の多次元パラメー
タの依存の解明に有効であるが、データ量が非常に多く人手による
解析では効率的が悪い。また将来的なミッションではより高分解能
な観測器の導入により、取り扱うデータ量が爆発的に増えることが
予想される。本研究では、あけぼの衛星搭載のマルチチャンネル受
信機 (MCA) で観測されるスペクトルデータから客観的にプラズマ
波動の種類を自動分類するアルゴリズムの開発を目的とする。
一般に波動の種別分類はそれぞれの波動現象のスペクトルの特徴か
ら行われる。従って計算機上での分類においても、スペクトルの特
徴を数値的に表現し、これを用いて分類することが望ましい。本研
究ではまず発生領域や発生周波数の似通っているコーラスとプラズ
マ圏ヒスの違いを明瞭に表す特徴量の考察を行い、自動分類アルゴ
リズムに取り込むと共により一般的な分類指標の開発に発展させる
。コーラスとプラズマ圏ヒスはいずれも数百 Hz から数 kHz の電
磁波で、あけぼの衛星がプラズマ圏の境界領域を飛翔するため、よ
く混在して観測される。一般にコーラスは 0.2 秒程度のエレメン
トが断続的に持続するスペクトルを持つのに対し、プラズマ圏ヒス
は 30 分以上の長時間にわたって強度が緩やかに変動する。そこで
波動強度の時間変化を周波数解析することにより、コーラスとプラ
ズマ圏ヒスの違いを数値的に評価した。その結果コーラスの強度の
時間変動は高周波成分が卓越する一方、プラズマ圏ヒスは高周波成
分が非常に小さいことが示された。
次にこの波動強度の時間変化の周波数成分、観測周波数、電界平均
強度などのパラメータを利用したクラスタ分析によって波動の種別
分類を試みた。クラスタ分析は多次元パラメータの類似度に応じて
与えた要素をグループに分割するアルゴリズムで、この分析では最
適な分割数を与えることが必要である。本研究では最適な分割数を
客観的に決定するための評価関数を以下のように導入した。扱う対
象が自然波動であることから最適な分類を行ったときの各クラスタ
中の要素の分布は正規分布に近いと仮定する。そこで要素の分割数
を変化させ、各クラスタ中の要素の分布が最も正規分布に近くなる
分類数を最適分類数と定義し、その段階での分類結果を最適解とす
る。このアルゴリズムを 1989 年 3 月から 1992 年 2 月までの
MCA のデータに適用した。その結果、コーラスとプラズマ圏ヒス
が異なる現象として分類できること、また ELF ノイズなど他の波
動もおおむね分類できることを確認した。しかし一部のデータにお
いて異なる種類の現象を同一のものと認識する等の誤判定も確認さ
れ、今後、分類に使用する特徴量の見直しやアルゴリズムの改良が
必要だと考えられる。