SELENEにおける電子反射法のシミュレーション

*大内田 敦郎[1], 綱川 秀夫[1]

東京工業大学[1]

Simulation of the electron reflection method in SELENE project

*Atsuro Ouchida[1] ,Hideo Tsunakawa [1]
Tokyo Institute of Technology[1]

In this study the electron reflection at the lunar surface is simulated to improve the previous conventional electron reflection method. As a result, when an ambient magnetic field is vertical to the lunar surface, electrons are reflected approximately within the circle of 2RL radius near the surface, where RL is the electron Larmor radius corresponding to the surface intensity and the incident electron energy. From the simulation the mean surface intensity of the reflection area is almost equal to the value calculated from an electron flux with specific pitch angle intervals (reflection coefficient <1). Therefore the convolution function can be approximated to have unity weight over a 2RL circle and the deconvolution is applicable to obtain a high resolution map of magnetic anomalies.

2005年度に打ち上げられる予定の月探査衛星SELENEは、高度100kmを周回 しながら様々な観測を行なう。その中で磁場と電子のデータを用いることによって月面の磁場強度を求めることが原理的には可能である(電子反射法)。しかしこれまでの電子反射法では簡便な解析方法が使われており、磁場強度の求め方や、求めた磁場強度の値が月面のどの範囲を表しているのか、という基礎的なことが正確には分かっていない。本研究では理想的な条件下で電子反射法のシミュレーションを行い、解析方法について検討 した。

最終的な目的は電子反射法の解析方法の確立であるが、現時点では次のことを検討している。
・検出器で観測された電子が月面のどこで反射してきたかを調べる。
・ピッチ角分布を用いた磁場強度の求め方について考察し、その磁場強度が月面のどの範囲を表しているのかを調べる。
・デコンボリューション等を行なうことにより、空間分解能をあげることを試みる。

シミュレーションの手順は以下のとおりである。
1.外部磁場は一定とし、月面下に磁気双極子を置いて磁気異常を生成する。
2.高度100kmから月面に向かって電子を入射させる。
3.ミラー効果により月面の手前で反射して、検出器に入ってきた電子をカウントする。

本来は高度100kmから多数の電子を入射させ軌道を計算し、反射電子をカウントすべきだが、これらすべての電子の軌道を計算することは計算機の性能上難しい。そこで、時間進行方向を負にした運動方程式を適用し、検出器から軌道を逆にたどることにした(逆軌道法とよぶ)。
このシミュレーションにより、外部磁場が月面に対して垂直である場合には、電子は衛星の下およそ2RL(RLは電子のラーマー半径)を半径とする円内で反射して戻ってきていることが分かった。ここで、RLは観測された反射係数が0~1のピッチ角分布のデータを平均して求めた磁場強度から計算される。このことからピッチ角分布から計算した磁場強度は、半径2RL円内の月面磁場の平均値を表していると考えられるので、空間的に連続したシミュレーションデータを用いてデコンボリューションを試みた。その結果、従来の解析方法よりも磁気異常によく一致するパターンが得られた。
現在、外部磁場・月面・磁気双極子の相対的な角度を変化させてシミュレーションを行なっている。例えば外部磁場を月面に対して傾けたとき、電子の反射点は観測点における磁場ベクトルを月面まで延長し、その交点を中心とした楕円内に分布すると予想される。シミュレーション結果から、ピッチ角分布から求めた磁場強度は、反射点を楕円分布と仮定した場合のパターンと似ていることが分かった。しかしながらピークの高さは異なり、その理由を検討中である。
本研究では、高度100kmから無数の電子が入射してくることを前提にしている。しかし実際の宇宙空間では電子の数は限られているし、月の裏側の観測では電子数の不足も懸念されている。このような観点から、将来的には観測条件を変えてシミュレーションを行なう予定である。