水星探査機搭載用高速中性粒子計測器の開発
*浅村 和史[1], 向井 利典[1], 斎藤 義文[1]
宇宙科学研究所[1]
Development of energetic neutral atom analyzer for Mercury mission
*Kazushi Asamura[1]
,Toshifumi Mukai [1],Yoshifumi Saito [1]
Institute of Space and Astronautical Science[1]
In the Mercury environment, a part of energetic particles originated
from the solar wind as well as the magnetosphere can impact onto
the Mercury surface. Due to the impacts, surface constituents
are emitted to the exosphere as sputtered particles. A part of
the sputtered particles has relatively high energy (~100eV),
although the majority of them has lower energy. We are developing
an energetic neutral atom (ENA) analyzer for Mercury mission.
The instrument will measure the sputtered ENAs which is the high
energy component of the sputtered particles.
水星は固有磁場強度が小さく、磁気圏の中で惑星の占める割合が
大きい。このため、地球に比べ地表付近での磁場強度はそれほど
大きくなく、磁気圏プラズマ粒子や太陽風粒子が比較的容易に磁
気ミラー力による障壁を越えて惑星表面に到達できると考えられ
ている。このようにして粒子が水星表面に衝突すると、表面から
二次的な粒子がたたきだされる (スパッタリング)。スパッター
された粒子の中には数10eV から数100eV の高エネルギーのもの
も存在すると考えられており、逆に、光子や電子の衝突によって
表面から脱ガスされる粒子の持つエネルギーは低い。したがって
高速中性粒子の計測によって水星表面からスパッターされた粒子
を選択的に観測することができる。
スパッタリングの源となる降り込み粒子は磁力線に沿って降り込
んでくるため、スパッターされた粒子の観測はスパッタリングの
起こった水星表面上の領域と磁力線で繋がった磁気圏内の領域で
起こるプラズマ現象のモニターとなり得ると考えられる。スパッ
ターされる粒子の多くは中性粒子であると考えられており、中性
粒子は電磁場の影響を受けず、重力や太陽光輻射圧の影響のみを
受ける。このため、観測点 (衛星) とは磁力線で繋がっていない
領域でスパッターされた粒子であっても観測できる。このことは
プラズマ粒子を観測する際の本質的な問題である、観測された変
化が時間変化なのか空間変化なのかを分離することが困難、とい
う問題の解決にスパッターされた中性粒子の観測が役立つことを
意味している。また、スパッタリングは水星表面で起こるため、
粒子の生成領域を粒子の到来方向から直接知ることができる。こ
のことは高速中性粒子観測にとって重要である。地球磁気圏でも
高速中性粒子を観測することで磁気圏大規模構造の観測が行われ
ているが、地球磁気圏で観測される高速中性粒子の生成領域は磁
気圏であり、領域が観測器の視線方向に広がってしまうため、ど
の磁力線上で中性粒子が生成されているのか推定するためにはプ
ラズマ粒子の分布などいろいろな仮定が必要になってしまう。も
ちろんスパッター粒子の観測データの解釈においても水星表面の
組成や磁力線の形状などの仮定が必要になるが、生成領域を直接
決定できることは大きなメリットである。
もう一つの高速中性粒子観測の目的は水星外圏の生成 (供給、ロ
ス) メカニズムの情報を得ることである。スパッターされた粒子
のフラックス、組成は太陽風・磁気圏の状況や水星表面の組成に
左右されており、どのような条件が外圏の発展へ寄与するのか調
べることのできる可能性がある。
以上のような高速中性粒子観測の利点を踏まえ、我々は観測器の
開発に取りかかろうとしている。本発表では観測器の原理・性能
などについて述べる。