Akebono衛星搭載イオン質量分析器(SMS)で観測されたM/Q〜2付近のイオン について
*佐川 永一[1], 渡辺 成昭[1], 山田 学[2], 渡部 重十[2]
通信総合研究所[1]
北海道大学理系研究科[2]
An unusual ion mass peak around M/Q~2 with the AKEBONO/SMS ion mass spectrometer
*E. Sagawa[1]
,S. Watanabe [1],M. Yamada [2],S. Watanabe [2]
Communications Research Laboratory[1]
Hokkaido U.[2]
The ion mass spectrometer on board the AKEBONO satellite (SMS)
has both high sensitivity and high mass resolution. The SMS
occasionally observes a broad ion mass peak between 2 and 4 amu/q
in its mass spectrum. Because the width of the mass peak is
much broader than the instrumental resolution, this might suggest
the existence of multiply ionized ions such as Fe10+ and others
commonly found in the solar wind, injected into the polar ionosphere.
However, the flux of these ions is much larger than those expected
in the normal solar wind. Therefore, it may be instrumental
artifact.
1 はじめに
Akebono衛星に搭載されたイオン質量分析器(SMS)はエネル
ギー分析とイオン質量分析の機能をもつ。その特徴として、高い
分解能と感度を持っていることが上げられる。SMSの観測は、
これまで報告されているように、電離圏からのIon Outflow現象
に対して新しいデータセットを提供している。しかし、SMSの
観測データの中にはこれまでの常識では考えられないような現
象も存在する。本論文では、SMSが高精度のイオン質量分析を
行っている場合に2<M/Q<4の範囲に観測されるブロードな質量
ピークについて検討した結果を報告する予定である。
2 観測例
図に1990年4月12日の観測例をしめす。SMSの観測は約2分
で0-25eVのRPA観測と0.8-64amu/qの質量数スキャンをおこ
なっている。図ではこの1サイクルの観測を横軸にRPA電圧、
縦軸に質量数の対数をとって示している。また、同時に横軸は時
間軸ともなっている。2つのパネルは磁力線にたいして、上昇方向
(下のパネル)と直角方向(上)の観測である。イオン質
量のピークはH+に対応する1amu/q付近が最も高く、次にO+ とHe++(16と4 amu/q)にピークが存在する。
ここで注目するのは、その2つのピークにはさまれて、
2<amu/q<4に存在するブロードな質量ピークである。このような、
イオン質量ピークの存在は、これまでamu/q=2イオンの観測と関連
して、渡辺他によって報告されているが、このピークが何であるか
の詳細な検討はされていない。本報告では、機器的なノイズの可能
性も含めて検討を行う。
3 モルフォロジー
これまでの観測では、問題としている質量ピークは昼間側の高緯
度領域、特にカスプ/クレフト領域で観測されるケースが多い。
特徴的な点は、SMSの質量分解能に比べて、非常にブロードな
ピークを持っている点にある。もし、これが自然界にあるイオン
であるなら、可能性としては太陽風中に存在する多価イオンが候
補となる。たとえば、鉄イオンは太陽風中では典型的には10価
程度でイオン化しているので、amu/q~2.6にブロードなピークを
作ると予想される。しかしながら、観測されたフラックスは太陽
風に多量に存在するHe++と比べると常識的な存在比によりはる
かに多い。このことは、逆にインストルメンタルな問題があるこ
とを示唆している。とくに、カスプ/クレフト領域では非常に強
いH+のフラックスがあることに注意する必要がある。
AKEBONO衛星打ち上げ当時は限られた太陽風データしか存在
しなかったが、講演では、WIND/ACE衛星の良質な太陽風観測
が得られる時期について、同様のイベントを解析するとともに、
機器の観測上の問題点についても検討し報告する予定である。