古地磁気方位と古地磁気極の分布

*畠山 唯達[1], 河野 長[1], 田中 秀文[2]

岡山大学固体地球研究センター[1]
高知大学教育学部[2]

Distributions of paleomagnetic directions and poles

*Tadahiro Hatakeyama[1] ,Masaru Kono [1],Hidefumi Tanaka [2]
Institute for Study of the Earth's Interior, Okayama University[1]
Faculty of Education, Kochi University[2]

We compare the distributions of the field directions and VGPs between paloemagnetic data and our paleosecular variation model derived by an inverse method. Our model well explains the distorted distribution of the paleodirection and circularly distributed VGPs in Hawaii, an instance of low latitude site. The model shows that the distribution of the VGPs is in a circle instead of that of the directions. The extent of the VGP far-side effect in Hawaii and Iceland is also represented by the model.

はじめに
これまでの間, 古地磁気永年変化を議論する上で主に方向データや 仮想磁気極(VGP)のばらつきが用いられてきた. そこでは方向やVGP の分布が Fisher 分布, つまり球面上にデータが等方的に(丸く)散 らばっているしていることを仮定している. しかし, とくに低緯 度のサイトの場合, 方向と VGP のどちらかが丸くなれば, もう片 方は分布が歪むため, 通常の Fisher 統計ではこの2つを同時にと り扱うことができない. 近年, 火山岩から得られる古地磁気デー タの数が増え, また古地磁気永年変化モデルが発達してきたことで, 方位および VGP の分布について研究がされるようになってきた (Kono, 1997; Tanaka,1999). 本研究では, 「平均地球磁場(TAF) −永年変化(PSV)モデル」(2001 年合同大会)と実際のデータとの方 向・VGP の分布についての比較, および, 重要な役割を果たしてい る PSV の成分について, Bingham 統計を用いて議論をする.
モデル
ここで用いる「TAF-PSVモデル」は, 方向データの平均および分散 と, TAF-PSV の間にある非線形な関係を考慮したインバージョンに よって解いたものである. とくに今回の研究で用いられるPSVモデ ルでは, 地心軸双極子(g10)の分散, 「l=2, m=1」成分の分散, そ の他の成分の分散の3パラメータが独立に求められており, ほぼ軸 対称な古地磁気永年変化を表している. また分布の「形」を考慮 したモデルを求めるために, 古地磁気データの各方向余弦成分(x, y, z)の標準偏差を使用している.
データ
過去数百万年間分の火山岩データで, 十分に分布そのものの議論が できる場所としてハワイとアイスランドが挙げられる. 本研究では この2点のデータをそれぞれ, 低緯度・高緯度のサイトの代表とし て取り扱う. アイスランドは広井(1996), ハワイおよび全球的なデ ータとして McElhinny and McFadden (1997) および Johnson and Constable (1996) のデータセット(方向のみ)を使用した.
結果
(1) ハワイのデータでは VGP は丸くなるが, 方向は子午面方向に 大きく歪む. また, アイスランドではどちらもほぼ丸く現れる. モデルも同様な結果を表していて, かつその分布のゆがみ度合, 広 がりもデータを良く表している. つまり方向余弦を用いたインバー ジョンはデータの分布についても良く表現されていることが言える. モデルからの推測では, 「丸く」なるのは方向データでなく VGP である.
(2) 両地域でのモデルが表す VGP の平均はいずれも観測点に対し て北極よりも向こう側に現れ(far-side effect), ずれの大きさも データをよく説明している. ただしこのずれは, アイスランドに おいてはほぼ TAF の四重極子成分が原因であるのに対して, ハワ イでは3割程度はPSV の影響による見かけの平均方位のずれ (Hatakeyama and Kono, 2001; 伏角が2度程度浅くなる)によるも のと考えられる.
(3) PSV のうち, 球面調和函数の「l=2, m=1」成分は VGP のばら つきの緯度依存性を説明する要素と考えられている. この成分は方 向を丸く, VGP を子午面と逆の方向に歪ませる効果があるが, 実際 にはさほど効いているわけではない.