フリッカリングオーロラの時間・空間構造から推定されるマイクロスケールプラズマ 物理過程

*坂野井 和代[1], 福西 浩[1]

東北大学大学院理学研究科[1]

Micro scale plasma processes deduced from spatial and temporal structures of flickering auroras

*Kazuyo Sakanoi[1] ,Hiroshi Fukunishi [1]
Department of Geophysics, Tohoku University[1]

Flickering auroras have micro scale spatial structures of a few km and rapid temporal structures of several to over 10 Hz. These spatial and temporal structures would be produced by periodical field-aligned electron flux modulations. Some theoretical models have been proposed so far to explain the periodic modulation of precipitating electron fluxes. However, these models have not been verified by optical observations due to a lack of sufficient spatial and temporal resolutions. In this study we will discuss micro scale processes which can produce the spatial and temporal structures of flickering auroras based on our optical data obtained from the fast imaging photometer observations at Syowa station, Antarctica.

 近年、オーロラ粒子加速域ならびに電離層におけるマイクロスケールの 物理過程に関心が集まっているが、このようなプロセスを強く反映する現 象の一つにフリッカリングオーロラが挙げられる。フリッカリングオーロ ラは明るいオーロラアークまたはサージ中で観測される現象で、数kmオ ーダーの微細構造を持ち、数〜10数Hzの周期的な発光強度変動を示 す。このような周期的発光強度変動は、オーロラ降下電子のフラックスが 変動することにより引き起こされており、この電子フラックス変動を発生 させるメカニズムについてはいくつかの理論が提唱されているが、完全な 理解には至っていない。古典的に考えられている最も代表的な説は、オー ロラ粒子加速域における電磁イオンサイクロトロン波と降下電子の波動粒 子相互作用であるが、これ以外にも低エネルギー電子バーストとの関連か ら考えられるV型ポテンシャルの周期的なON/OFF機構、発光周期の スペクトルの広がりから考えられる電離層高帯域ELF波動などの説もあ る。これらフリッカリングオーロラを引き起こす一連のプロセスの中で、 降下電子フラックスの変動については、衛星観測やモデルなどから研究が 進んでいる。一方で、フリッカリングオーロラについては、その定量的な 性質すら未だ未解明の点が多い。これはその微細構造と早い周期変動、さ らに数km/sec以上の高速な運動と、微弱な発光強度変動がネックとなり、 フリッカリングオーロラの光学観測が非常に困難なためである。従って、 光学観測からフリッカリングオーロラの性質を詳細に捉えることにより、 電子フラックス変動を発生させるメカニズムについて新しく有用な情報を 提供することが可能となる。  以上のような背景から、我々は新しく2次元高速フォトメータを開発 し、1998年4月〜9月に南極昭和基地でフリッカリングオーロラの光 学観測を行った。この観測では、数Hz以上という早い時間変動を正確に 捉えるため、励起から発光までの時間が非常に早い窒素イオン発光 (427.8nm)と窒素分子発光(660nm近傍)のみを観測した。サンプリン グ周波数は100Hzおよび1000Hz、空間分解能は1.75度、全視野 は13.4度である。この観測データを解析し、以下のような結果が得られて いる。フリッカリングの発光強度変動周期は4〜15Hz、空間構造は数 km〜10km程度。数10〜100km/sec以上でフリッカリングコラム が運動をしている現象もあるが、ほとんど運動していないような現象も観 測されている。空間的にフリッカリングコラムが波動状に分布、伝搬して いる現象に関しては、観測から得られたフリッカリングオーロラのパラメ ータを用いて、電磁イオンサイクロトロン波との理論と数値的に比較した ところ、非常に良く一致した。一方で運動をしていないような現象に関し ては、従来のモデルでの説明が難しく、新しいモデルを必要とする。  本発表では、観測から得られたフリッカリングオーロラの時間・空間構 造を基に、オーロラ粒子加速域におけるマイクロスケールのプラズマ物理 過程についてさらに議論を進める。