部分非履歴性残留磁化獲得のための装置の作成

*後藤 美穂[1], 宮下 朋子[1], 福間 浩司[1]
渋谷 秀敏[2]

熊本大学理学部環境理学科[1]
熊本大学理学部地球科学科[2]

Devising a new apparatus for partial ARM acquisition

*Miho Goto[1] ,Tomoko Miyashita [1],Koji Fukuma [1]
Hidetoshi Shibuya [2]
Department of Environmental Sciences, Kumamoto University[1]
Department of Earth Science, Kumamoto University[2]

We devised a new apparatus to impart partial anhysteretic remanent magnetization (pARM). Magnetic anisotropy is usually evaluated with magnetic susceptibility which is used to estimate petrofabric or to correct remanence directions. While mechanical behaviors or remanence acquisition processes intrinsically depend on grain size, measured magnetic susceptibility comes from integration over a wide range of grain size. We intended to devise a new pARM apparatus to obtain magnetic anisotropy from a particular range of grain size. To satisfy necessary conditions imposed by this purpose, we built a direct field coil with a large diameter to produce an uniform magnetic field, and this coil was connected to a comparator to turn on/off the direct field probing a decreasing alternating field.

 磁気異方性を用いて岩石や堆積物のファブリックを求めたり残留 磁化の方向を補正することができる.現在ではKappaBridgeなど 感度が高く短い時間で測定できる装置が広まり,磁気異方性は地球 科学の様々な分野で利用されるようになった.通常,磁気異方性の 評価は磁化率の異方性の測定に基づいて行われるが,磁化率は試料 に含まれる全ての磁性粒子からの総和である.一方,粒子の物理的 な配向性や残留磁化の獲得は強い粒径依存性をもっており,特定の 粒径の磁気異方性のほうがより明瞭な異方性を与えることがでる. 今回,部分非履歴性残留磁化(partial ARM:pARM)を与えるた めの直流磁場発生用のコイルとその周辺回路を作成し,交流消磁装 置に組み込んだ.total ARMでは試料中の様々な保持力をもつ grain全体にARMを与えるのに対して,partial ARMではある特定 の保持力をもつgrainに限ってARMを与えることができる.pARM の異方性を測定するには試料の方向を変えながらpARMを繰り返し 与える必要があるため,より高い再現性が求められる.

 標準的な古地磁気用の試料を一様に磁化させるために,十分な 径(11.4 cm)と長さ(25.0 cm)をもつ直流磁場発生用のソレノイド コイルを作成した.このコイルは,試料に対してコイルの径が十分 に大きいことが特徴である.そのため,コイルの中心での磁場の強 さは通常用いられてきた大きさのコイルに比べて約25%小さくな るが,試料の中心とその端での磁場の強さの差は1%未満とより均 一な磁場を試料に与えることができる.発生可能な磁場の大きは, 電流200 mAで最大0.47 mTである.
このコイルを直流電源につなぎ,交流磁場発生用コイルとの間には コンパレータ付きのデジタルマルチメータを用いてリレー回路を組 んだ.このコンパレータによって,ある特定の範囲の交流磁場の時 に自動的に直流磁場をONにすることが可能となる.一方,交流磁 場発生用コイルの内部に直流磁場発生用のコイルを互いに軸が平行 になるように設置するため,交流を流すと必然的に相互誘導が起こ ってしまう.この誘導電流を抑えるために,高いインダクタンス (10 H)をもつチョークコイルを直流磁場コイルに接続する必要があ る.同時にpARMの再現性を保証するには矩形波的な直流磁場を与 える必要があるが,チョークコイルは誘導電流を抑える反面その高 いインダクタンスのため直流磁場のON/OFFにかかる時間(時定数) を0.1から49.3 msecへ増加させる.交流磁場(B in mT)を例えば ピーク値50 mTから減衰させた場合,その減衰は B = 50*Exp(−0.0827t) (t: 時間 in sec)で近似できる.従って, 30 mTで直流磁場をONにしたとき,直流磁場が十分に大きくなる までに交流磁場は0.123 mTだけ減少していることになる.しかし, この差は交流磁場自体の強度のわずか0.41%であり,ほぼ矩形波的 な直流磁場を与えていると見なすことができる.
この装置により,一定の範囲の保磁力の粒子に対してpARMを繰り 返し与えることができ,pARMの異方性の測定に必要な再現性を満 たすことができると考えられる.pARMの異方性は常磁性鉱物の異 方性への寄与を除くことができるばかりでなく,残留磁化の補正の ためには高保磁力の粒子のpARMを用い,逆にファブリックを求め るには低保磁力(粗粒)の粒子のpARMを用いるなど,区別をつけ て磁気異方性を利用することが可能になる.