バルーニング不安定によるサブストームオンセットの条件:流体モ デルと無衝突モデルとの比較
*三浦 彰[1]
東京大学理学部地球惑星物理学科[1]
Substorm onset condition by ballooning instability: Comparison between fluid model and collisionless model
*Akira Miura[1]
Dept. of Earth and Planetary Physics, University of Tokyo[1]
Substorm onset is considered to be initiated by the onset of
some instability in the near-Earth plasma sheet. Ballooning
instability has long been considered to be a candidate mechanism
causing the onset. A critical beta formula of ballooning instability
was previously derived from fluid model, and expressed by the
field line curvature radius and the pressure gradient scale
length in the near-Earth plasma sheet. However, a critical beta
formula, which differs considerably from that based on the fluid
model, was recently derived from collisionless model. In order
to describe accurately the behavior of ballooning instability
at the onset, those two critical beta formula are compared and
the physical origin of the difference is clarified.
サブストームのオンセットは磁気圏に蓄えられたエネルギーの急
激な解放の始まりで最も赤道側の静かなオーロラアークの急激な輝
度の増加によって特色づけられる。その急激な始まりは磁気圏の近
尾部での赤道面に近い領域での何らかの不安定性の発生によるもの
と考えられる。近尾部でのリコネクションがその機構であると考え
られてきたが、観測によればリコネクションは20−30Reで起
こるが、それより更に地球に近いオンセットの場所と考えられてい
る6−11Reでの直接のサブストームの引き金になるとは考えに
くい。近尾部では交換型不安定やバルーニング不安定等の圧力駆動
の不安定が起こりうるが、交換型不安定はプラズマのベータ値が大
きくなると安定化されてしまいオンセット直前のように磁場形状が
テイル状になっていくと共に赤道面のベータ値が増加していく状態
では安定化されてしまい考えにくい。その点、バルーニング不安定
は赤道面での磁力線の曲率半径と圧力勾配のスケール長によって決
まるある臨界ベータの値(10のオーダー)を超えると起こること
が知られており(Miura et al., 1989)、オンセットを説明するのに
は好都合である。もし本当にバルーニング不安定がオンセットを起
こす機構であれば、その臨界ベータを超えた時にサブストームの発
展相が始まることになりその臨界ベータ値の表式を正確に知り、近
尾部での磁気圏構造を表すパラメーターによって計算できる形にす
ることがサブストームの生起を知る上で必要である。
Miura et al. (1989)の計算では臨界ベータの値は流体モデルを用い
て導き出され、理想MHDの項と有限ラーモア半径の効果による非
理想MHDの項の和になっている。通常のパラメーターでは理想M
HDの項が卓越し、近尾部がテイル状になりベータが大きくなると
プラズマの圧力勾配も大きくなり、近尾部のプラズマは膨張しよう
とし、赤道面付近の磁場が支えきれなくなってバルーニング不安定
が起こることを表す。しかし近尾部でのプラズマは無衝突であり近
尾部でのバルーニング不安定は運動論的に記述しなければいけない
との観点から無衝突モデルを用いた臨界ベータの値が導き出されて
いる(Cheng and Lui, 1998)。その表式も二つの項からなりMiura et al. (1989)の流体モデルで導出した臨界ベータの表式とかなり似て
いるが、理想MHDから出てくる臨界ベータの項に10〜100の
大きな係数がかかっており、流体モデルよりはるかに大きな臨界ベ
ータの値を与える。この大きな臨界ベータの値は流体では記述でき
ない電子のミラー磁場中でのトラッピングの効果による沿磁力線電
場の効果によるものであることが明らかにされているが、その係数
は電子とイオンの温度比やトラッピング粒子の割合などによりかな
りモデルに依存する。一方、Pritchett and Coroniti (1999) は3次元の
粒子シミュレーションを行い、理想MHDで計算された臨界ベータ
に近い値を超えたときに確かに近尾部でバルーニング不安定が励起
されることを確かめている。従ってこの粒子シミュレーションに関
する限り流体モデルによる臨界ベータの方がより正確であることを
示唆し、必ずしも無衝突モデルで導出した臨界ベータの表式がより
正確であるという訳ではないことを示す。そこで、流体モデルによ
る臨界ベータの値と無衝突モデルの臨界ベータの表式のどちらが、
実際に磁気圏でバルーニング不安定の振る舞いを正確に記述するか
はまだ明らかでなく、より正確なサブストームオンセットの条件を
導き出すことを目的として、講演では二つのモデルの相違について
明らかにする。