南極昭和基地における1-500 Hz帯ELF波動観測に基ずく スプライト・エルブス発光時の電荷モーメントの推定

*佐藤 光輝[1], 福西 浩[1], Martin Fuellekrug[2]
菊池 雅行[3], 山岸 久雄[3]

東北大学大学院理学研究科[1]
フランクフルト大学[2]
国立極地研究所[3]

Estimation of the charge moments of CGs inducing sprite and elve events from 1-500 Hz ELF data obtained at Syowa station, Antarctica

*Mitsuteru Sato[1] ,Hiroshi Fukunishi [1]
Martin Fuellekrug [2],Masayuki Kikuchi [3]
Hisao Yamagishi [3]
Graduate School of Science, Tohoku University[1]
Institut fur Geophysik, Universitat Frankfurt[2]
National Institute of Polar Research[3]

Using the two sets of two-component (X, Y) search coil magnetometers, continuous monitoring of ELF waveforms in the frequency range of 1- 500 Hz has been carried out at Syowa station (69.0S, 39.6E), Antarctica since February 2000. During the STEPS campaign which was conducted from May 22 to July 15, 2000 in the US Great Plains, many sprite and elve events were detected at Yucca Ridge, Colorado. It was found that ELF transients characterized by quasi-sinusoidal, damped oscillations referred to as Q-bursts are highly correlated with these optical transient events. Charge moments of causative cloud-to-ground lightning discharges estimated from the magnetic field data and their relationship to the intensities of sprites and elves will be discussed.

 雷放電により引き起こされる中間圏・下部熱圏領域での発光現象 (スプライト・エルブス)に伴い、ELF帯に非常に強い電磁放射が 発生していることが近年の観測により明らかになった。また、ELF 帯電磁波動の中でもシューマン共鳴波動(8-60 Hz)データを用い て、雷放電およびスプライト・エルブス発光時における電流モーメ ントおよび電荷モーメントを見積もる試みが近年行われている。し かしこれらを定量的に求めるためには、人工雑音レベルの低い環境 で得られたELF帯の磁場波形データが必要不可欠である。そこで我々 は、スプライト・エルブスに伴うELF帯電磁波動を観測するため、 誘導磁力計を用いた1-500 Hz帯電磁波動の波形観測を南極の昭和基 地(69.0S, 39.6E)において2000年2月より実施した。0.2-500 Hz帯 でフラットな感度特性(0.3 mV/pT)を持つ誘導磁力計を水平2成分 設置し、16ビットの分解能、1000 Hzのサンプリング周波数で24時間 連続的に波形データを取得した。昭和基地周辺は人工雑音レベルが 極めて低いことから、高いS/N比で良質なデータを取得することに成 功した。  2000年5月22日から7月15日にかけて米国で実施されたスプライト ・エルブスの光学・電磁波動共同観測期間(STEPSキャンペーン)に おいて、コロラド州Yucca Ridge(40.7N, 104.9W)でスプライト・ エルブスが数多く観測された。これらの発光現象に伴いYucca Ridge から16580 km離れた昭和基地では、減衰振動波形を持つトランジェ ントなELF波動(Q-バースト)が観測されることが明らかとなった。 さらに磁場波形データからホドグラム図を作成し、スプライト・エ ルブスに伴うELF波動の到来方向と伝搬経路を求めた。その結果、 NLDN(National Lightning Detection Network)データから求めた スプライト・エルブスを引き起こした雷放電の発生位置と、ELF波動 の伝搬経路である大円までの距離が平均して約244 kmとなることが 分かり、高い精度で雷放電の発生方向を推定できることが判明した 。講演では、昭和基地で得られた磁場データに加えドイツと米国カリ フォルニア州で得られたELF波動データも用いることにより、スプラ イト・エルブスの発生位置を三角測量の手法から推定した結果につ いて議論する。また、これらの磁場波形データを用いて電荷モーメ ントを導出する手法を紹介するとともに、この方法によって見積も られた電荷モーメントと、スプライト・エルブスの関係について詳 細に議論する。