宇宙プラズマ計算機シミュレーションの問題解決環境の提案

村田 健史[1], *Nurdiyana A Ghani[1], 臼井 英之[2]
上田 裕子[3], 岡田 雅樹[4], 松本 紘[2]

愛媛大学工学部[1]
京都大学宙空電波科学研究センター[2]
宇宙開発事業団[3]
国立極地研究所[4]

A problem solving environment for space plasma computer simulations

Takeshi Murata[1] ,*A Ghani Nurdiyana [1],Hideyuki Usui [2]
Hiroko Ueda [3],Masaki Okada [4],Hiroshi Matsumoto [2]
Faculty of Engineering, Ehime University[1]
Radio Science Center for Space and Atmosphere, Kyoto University[2]
National Space Development Agency of Japan[3]
National Institute of Polar Research[4]

Due to development of super computers, especially parallel super computers, and high-speed network, roles of computer simulations are getting important. Plasma simulations have contributed a lot to the studies of space plasma, fusion plasma, process plasma and other plasma fields. However, simulation environments have not been kind for researchers who don't program their own simulation codes. We herein propose a new virtual network laboratory system for plasma simulations.This system is composed of front-end WWW server and back-end super computer. With the present system, space plasma simulations become closer to non-programming researchers, and even to general (non research) users.

PSE(問題解決環境)とは、解決したい問題を、コンピュータを利用し て効率的に解く環境(システム)のことである。1970年代にPSEの研究が始 まって以来、様々な分野においてPSEの研究が進められてきた。しかし、 宇宙プラズマシミュレーション分野では、PSE研究は行われていない。本 研究では、宇宙プラズマシミュレーション環境の問題点を整理し、今まで 提案されてきたPSE研究をもとに、WWWをベースとした、宇宙プラズマシミュレーションのためのPSEの概要を提案する。提案するPSEは、モデル・入力パラメータ設定、パラメータテスト・結果予測、ジョブ管理と計算結果可視化から構成される。
宇宙プラズマシミュレーションでは、宇宙空間のプラズマ現象を取り扱 う。特に、プラズマの不安定性の成長や、非線形現象を解析するのに有効である。計算機シミュレーションは、一般に、(1)問題のモデル化、(2)解決手法の選択、(3)差分法などの離散化、(4)プログラミング、(5)計算の 実行、(6)データ解析と可視化、など、幾つかのプロセスからなる。本研究では、特に、(4)と(5)におけるPSEを議論する。
宇宙プラズマシミュレーションの問題点をまとめると、以下のようになる。(a) シミュレーションコードは、一般に、複雑な方程式系、タイムチ ャートやアルゴリズム等を持つ。従って、プラグラマ以外は、コードを理解するのが困難で、コードの改良や共同開発が難しい。(b)プラズマ粒子 コードは、数値不安定性が生じやすい。このため、長時間計算において、 計算実行が異常終了になる事がある。(c) 計算実行前に線形理論や準線形 理論の予測値を知る意義がある。これは問題点ではないが、計算前に予測 を行う事により、理論との比較やパラメータ選択が容易になる。プラズマ シミュレーションではパラメータのわずかな違いにより、結果が全く異なることもあるため、線形・非線形予測は有効である。
近年、情報通信・コンピュータインフラの発展により、PSEに有効な計算機環境が実現されている。ソフトウエア工学においては、オブジェクト指向のプログラミングが一般的なりつつある。また、関係データベース技術の発展、JavaやCGI、PHP等によるWWW上のGUIの機能も便利になって来 た。本研究では、これらの技術により宇宙プラズマシミュレーションの問 題点を解決する。
(a)は、プラズマ粒子シミュレーションコードをオブジェクト指向開発技法・オブジェクト指向プログラミングによって設計・実装する事により解決する。ここでは、各オブジェクト(領域、磁場、電場、電流密度、プラズマ粒子)をクラス化することにより、クラスと複雑なタイムチャートを切り離すことが可能となり、また、コード改良や共同開発が容易になる。(b)の問題点は、計算領域をサーベイして、既知の全て数値不安定性について調べる手段で解決する。知識ベース・データベースを利用して過去の 計算より、計算結果を予測し、最適なパラメータを選択する。さらに、計 算結果を評価することもできる。(c)の線形・非線形理論による数値計算結果の予測は、WWWのGUIを利用して実現する方法で解決する。これは、パラメータを設定する時に、計算領域を可視化し、マウス操作などにより、予測値の表示行うことにより可能となる。
本研究のPSEでは、WWWを用いることによって、コード開発者以外の研究 者でも宇宙プラズマシミュレーションになじみやすい環境を提供する。発表では、提案するPSEの構成を各項目ごとに詳細に検討する。