利根川本流に分布する河川堆積物の帯磁率について
*中井 睦美[1], 内田 一弥[1]
大東文化大学[1]
The magnetic susceptibility of fluvial sediments distributed along the Tone River
*Mutsumi Nakai[1]
,Kazuya Uchida [1]
Daito-Bunka Univ.[1]
We studied of magnetic susceptibility of the fluvial sediments
sampled from 45 sites along the main course of the Tone River
that flows through the Kanto Plane, central Japan. Within the
river basin of the Tone River, various rocks, e.g. limestone,
chert, and volcanic rocks, are distributed. The susceptibility
of these samples generally increases from up to down the river.
Nevertheless it is clear that the susceptibility remarkably changes
where tributary flows into the main course of the Tone River.
利根川は関東平野のほぼ中央を流れ,全長約322キロメートル
流域総面積は約16829平方キロメートルと日本で最も広範囲に流れ
る川として知られている.第四紀に,その本流域は様々に変化し,
さらに,江戸時代に入ってからは大規模な治水工事により,河口は
東京湾から,銚子へと変化させられている.その支流域には,中古
生界のチャートや石灰岩といった反磁性から常磁性の帯磁率の小さ
い岩石や,含まれる主要鉱物によって反磁性から高い強磁性まで帯
磁率の変化の激しい変成岩類,あるいは極めて帯磁率の高い第三紀
から第四系の火山岩類まで,様々な岩石が分布している.河川の流
域に分布する岩石は,その河川堆積物の供給源であるから,利根川
の河川堆積物の性質は,とりもなおさず,その支流域に分布する岩
石の特徴を反映することになる.
講演者らは,利根川本流上流の矢木沢ダムから銚子まで,45カ所
で,主として川砂を採取し,全体の帯磁率,並びに粒度毎の帯磁率
を測定した.ただし,河川堆積物は級化作用が顕著なので,採取に
あたっては,有色鉱物の濃集部分を採取しないように,また,採取
地点の全体の堆積物を代表する部分を採取するよう留意した.さら
に近年の河川には,他地域から運び込まれた土砂類も混じる可能性
があるので,可能な限り,現河川に近い部位で採取した.分析にあ
たっては,単に帯磁率だけではなく,堆積物の粒子の円磨度,粒度
なども併せて観察した.その結果,大きな支流の流入があるたびに
河川堆積物の帯磁率は明確に変化すること,また,大きな支流の流
入がない場合は下流に行くに従って,砂の粒度が細粒化し,帯磁率
も上昇する傾向があることが判明した.また,砂の粒度は,径1mm 以上,0.25-1mm, 0.25mm以下の3種類に分類して帯磁率を測定した
が,粒度別帯磁率は,支流から流入する堆積物の帯磁率への影響と
運搬作用によって細粒化していく堆積物の帯磁率への影響を分析し
ていくのに有効であることが判明した.
帯磁率は,野外でも簡単に測定できる物理探査方法であり,岩石
学的手法の補助手段として,地質学によく用いられている.かつ,
原岩の特徴をシンプルな数値で反映するので,一元化して比較しや
すいという特質を持っている.関東平野の第四系河川堆積物(河岸
段丘堆積物)の分布は複雑であり,これらから分析できる関東平野
の第四紀の河川流路の詳細な解明は,第四紀の造構運動の解明にと
って重要である.広域火山灰層序学を利用して年代決定は可能であ
っても,詳細な流路推定は現在の所困難である.しかし,今回の研
究結果より,堆積物の帯磁率分布を精査する事によって,流路推定
の手段にできる可能性があることがわかった.また,環境汚染によ
ってもたらされる工業廃棄物などの微少粒子による環境汚染の予備
調査としても,帯磁率測定は有用と思われる.