FT-IR観測からのO3、HCl、HF、HNO3、ClONO2の全量導出精度

*小林 展隆[1], 村田 功[1], 福西 浩[1], 中根 英昭[2]

東北大学大学院 理学研究科[1]
国立環境研究所[2]

Accuracies of the total column amounts of O3, HCl, HF, HNO3, and ClONO2 derived from FT-IR observations

*Nobutaka Kobayashi[1] ,Isao Murata [1]
Hiroshi Fukunishi [1],Hideaki Nakane [2]
Graduate School of Science, Tohoku University[1]
National Institute for Environmental Studies[2]

The vertical column amounts of O3, HCl, HF, and HNO3 are derived from infrared spectra observed with a FT-IR at Tsukuba using the SFIT nonlinear least-squares spectral fitting program. The calculated spectra are fitted to observed ones by a scaling of assumed initial profiles. Here, the selection of proper initial profiles is very important to improve accuracy in the derivation of total column amounts. We show that the upward or downward shift of the monthly mean initial profiles improves the accuracy of the derived O3, HCl, HF, and HNO3 column amounts using synthetic spectra. We also discuss the accuracy of ClONO2 column amounts derived from infrared spectra.

東北大学と国立環境研究所では、現在つくばにFT-IRを設置しO3 をはじめとした大気微量成分の観測を1998年12月から行っている。 FT-IRのデータ解析には、最小二乗法を用いてスペクトルのfitting を行い全量を求めるプログラム(SFIT)を用いている。この方法では、 求める気体の初期高度分布をスケーリングしてfittingを行うため、 初期高度分布の与え方が解析精度に影響する。 前回の講演では、初期高度分布に月平均高度分布のものを用い、 さらにスペクトルのfitting時の残差を指標として、その 初期高度分布を上下にシフトさせることの有効性を、まずO3に ついて、解析から得られた全量とつくばのドブソン型分光計に よる観測値とを比較することにより示した。また、O3以外の成分 については直接FT-IR観測の結果と比較できる観測値が存在しない ため、HCl、HF、HNO3についてはHCl-HF相関、O3-HF相関、 O3-HNO3相関を調べることにより上下シフトした初期高度分布を 用いる方法の有効性を示した。 しかし、これらの各成分間の相関の向上は、一般に中緯度では これらの成分間の相関が良いことを利用した、あくまで傍証である。 そこで今回は、HCl、HF、HNO3についても上下シフトを用いた 解析方法の有効性をより直接的に示すことを目的として、 初期高度分布からスペクトルを計算によって求め、これを 観測データと見なして解析を行うシミュレーションを行っている。 まず確認として、O3について、各月平均の高度分布からスペクトルを 計算して、それぞれの月のスペクトルに対して年平均高度分布を 用いてSFITでfittingを行った。その結果、上下シフトを用い なかった場合、真の値からの差の標準偏差が4.22%であったのに対し、 上下シフトを用いた場合は1.89%となり、ドブソン観測値との 比較結果と同様に精度が向上することが確認された。講演では HF、HCl、HNO3についての結果について報告する。 また、今回はClONO2についても解析を行った。解析に用いている ClONO2の吸収線は780.21cm-1のものである。この領域の吸収線の 形は、温度依存性の高いCO2の弱い吸収線などと重なっており解析 が難しい。そこで、この領域の解析では、Rinslandらによって まず779.3〜780.7cm-1の広い波数領域でCO2、H2O、HNO3、O3など のfittingを行い、それをもとに780.05〜780.355cm-1の狭い領域で ClONO2のfittingを行うという2段階の解析方法が提唱されている。 我々はClONO2の解析精度に大きく影響を及ぼすと考えられるCO2に 関しても月平均高度分布を用意し、さらにClONO2の初期高度分布の 上下シフトを用いて精度の向上を試みた。 観測された各成分全量の比較からは、化学変化によるオゾン破壊など を調べることができるが、日本のように大規模にオゾン破壊の起こ りにくい中緯度では観測精度の向上は重要である。2001年2月には 極渦が日本上空に到来するイベントがあったが、FT-IR観測の結果 からオゾン破壊の影響が見られた。講演では、ポテンシャル渦度解析 や流跡線解析も用いてつくば上空における極渦の影響について 議論する。