S+イオン2波長強度比によるイオプラズマトーラス内の電子密度の推定

*野澤 宏大[1], 三澤 浩昭[1], 高橋 慎[1], 森岡 昭[1]
岡野 章一[1]

東北大学大学院理学研究科 惑星プラズマ・大気研究センター[1]

Estimation of electron density of the Io plasma torus using the intensity ratio of S+ ion emissions

*Hiromasa Nozawa[1] ,Hiroaki Misawa [1],Shin Takahashi [1]
Akira Morioka [1],Shoichi Okano [1]
Planetary Plasma and Atmospheric Research Center, Tohoku University[1]

The Io plasma torus is consist of dense Iogenic plasma which is completely surrounding Jupiter. Ions in the plasma torus are excited by electron impact and emit photons between EUV and NIR wavelength. Among these emissions, forbidden line emissions of S+ ion (hereafter [SII]; 673.1, 671.6nm) are brighter and able to be observed from the ground. In addition, intensity ratio of the two is known as a good indicator of the electron density. In this presentation, we show [SII] 673.1nm intensity variation observed on the summit of Haleakala, Maui, Hawaii, during last December and January. Also we compare 673.1nm variation with the electron density which is estimated from the intensity ratio of [SII] 673.1nm to 671.6nm.

 イオプラズマトーラスは木星の衛星イオの火山性ガス(主成分:硫黄酸化物)を起源とする高密度のプラズマ(電子密度最大で約3,000cm-3)で構成されており、木星をドーナツ状に取り囲んでいる。プラズマトーラス中のイオン(主成分:S,Oイオン)は電子衝突により励起され、様々な波長で発光している。それらの中でS+ イオンの禁制線(以下[SII]:波長673.1, 671.6nm)は、トーラス中で最も明るい発光の1つであり、地上観測をする上では最も一般的なものとなっている。この[SII]の2波長の発光強度は、その場の電子密度に大きく依存することが知られており、以前から惑星状星雲等の電子密度を見積もる際にこれらの強度比が使用されてきた(Osterbrock [1989])。 イオプラズマトーラスの撮像観測は28cm望遠鏡システムを用い、日本時間2000年12月15日から2001年1月5日までハワイ・マウイ島のハレアカラ山頂( 標高3,050m )で行われた。観測対象は[SII] 673.1nm、671.6nm の2波長であり、これらは温度制御された半値幅約0.9nm のフィルターを用いて撮像された。観測上でのこれら2波長の位置づけは、673.1nm がプラズマトーラスの強度変動を対象としたメインの観測、671.6nm が電子密度推定等を目的とした補助的観測となっている。なお、我々の観測は撮像観測であるため、2波長を同時に観測することはできない。お互いの観測時間差は、露出時間(10〜15分)を服も含み、20〜30分程度となっている。 観測期間中、[SII] 673.1nm の発光強度はこれまでの3年にわたる観測と同様に10.2 時間程度の周期性を示したが、強度そのものは例年に比べて3割程度小さいものであった。今回は、673.1nm と671.6nm の強度比から見積もられた電子密度を用いて、[SII] 673.1nm の強度変動及び発光強度自体との関連について紹介する。観測結果から得られる電子密度分布と実際の電子密度分布については、Voyager 1 の観測結果を基にしたプラズマトーラスの発光モデルCITEP (Colorado Io Torus Emission Package; CITEP)を用いて検証を行った。 また、[SII]の発光強度は電子密度とイオン密度の積に比例することから、観測された発光強度と電子密度の動径方向分布用いて、S+イオン密度分布に関する紹介も行う。