昭和短波レーダーで検出された
夏季上部中間圏エコー

*小川 忠彦[1], 西谷 望[1], 佐藤 夏雄[2], 山岸 久雄[2]
行松 彰[2]

名古屋大学太陽地球環境研究所[1]
極地研究所[2]

Upper Mesosphere Summer Echoes Detected with the Syowa HF Radar

*Tadahiko Ogawa[1] ,Nozomu Nishitani [1],Natsuo Sato [2]
Hisao Yamagishi [2],Akira Yukimatu [2]
Solar-Terrestrial Environment Laboratory, Nagoya University[1]
National Institute of Polar Research[2]

Peculiar HF radar echoes observed at Syowa Station are reported. The echoes occurred in summer at slant ranges between 180 and 315 km under very quiet geomagnetic conditions. They are characterized by a duration of less than 80 min, quasi--periodic oscillations of velocity and echo power with periods of 5--20 min, velocities between -40 and +20 m/s, and narrow spectral widths. From data of June, July, December 1997, and January 1998, we identified such echoes on 4 days in December and January but not in June and July. Although range resolution of the HF radar (45 km) is very poor, we believe that our echoes are Antarctic Polar Mesosphere Summer Echoes (PMSE), relying on that the echo characteristics are very similar to the Arctic PMSE.

 北極高緯度域の夏季中間圏界面付近(80-90 km高度)に現れ るレーダーエコー(Polar Mesosphere Summer Echoes: PMSE) は1980年代以降、MF-UHF帯レーダーで観測されてきたが、その 詳細な振る舞いは、主としてVHF帯レーダーによる観測によって 解明されてきた。PMSEは界面温度がある閾値以下になった時に 出現することから、レーダー波散乱を引き起こす乱流の生成と 極低温下のエアロゾルや水クラスターイオンなどの挙動とが密 接に関係しているらしいことが分かっている。このように、 PMSEの生成は中間圏界面付近の化学・力学過程に支配されてい る。
 一方、南極では、1994年の南極半島ペルー基地での50 MHz MSTレーダー観測からPMSEが初検出された。南極PMSEが検出され にくい原因の一つとして、それまでにPMSE観測に適した定常的 なレーダーが存在しなかったことがあげられるが、最大の原因 は、南極の夏季中間圏界面温度が北極のそれに比べて若干高い ため、と推測されてきた。従って、南極でPMSEが1994年に初め て受かったという事実は、南極中間圏界面の温度が年々低下し てきていることを示唆している。今後も低下が続けば、PMSE検 出のチャンスは増えるであろう。  本講演では、昭和基地のSuperDARNレーダーでPMSEと判断で きるエコーが初観測されたので、その結果を報告する。1997年 6,7月(冬)と12月及び1998年1月(夏)に観測された180- 315 kmレンジの近距離エコーを全て調べて、PMSEと思えるエコ ーのみを抽出した。抽出の基準は、(1)オーロラエコーを避ける ため、地磁気が静穏であること(昭和基地K指数=0または1)、 (2) レーダーの16ビームのほとんど全てにおいて、エコーが1 時間以上にわたって断続的に観測されていること、である。こ の結果、夏季に4イベントがみつかり、冬季には皆無であった。 これらのエコーに共通する特徴は、(1)継続時間は80分程度で、 その間に消長を繰り返す、(2)ドップラー速度とエコー強度は5-20 分で準周期変動する、(3)ドップラー速度は-40 m/sと+20 m/sの 間にある、(4)スペクトル幅は狭い(40 m/s以下)、である。これ らの特徴は、北極PMSEの性質とよく類似している。ただし、HFレ ーダーは空間分解能が悪く(45 km)、第1レンジゲートが180 km であること、アンテナビームが広いことなどのため、エコーの高 度を正確に決めることは不可能である。今後、南極PMSEの挙動を 観測的に研究していくには、いろいろな観測上の工夫が必要であ る。