国土地理院GPS観測網を使った 中緯度移動性電離圏擾乱の研究

*大塚 雄一[1], 小川 忠彦[1], 斉藤 昭則[2]
津川 卓也[3]

名古屋大学太陽地球環境研究所[1]
コーネル大学[2]
京都大学大学院理学研究科[3]

Traveling Ionospheric Disturbances observed with the GSI GPS network in Japan

*Yuichi Otsuka[1] ,Tadahiko Ogawa [1],Akinori Saito [2]
Takuya Tsugawa [3]
Solar-Terrestrial Environment Laboratory, Nagoya University[1]
Cornell University[2]
Graduate School of Science, Kyoto University[3]

Total electron content (TEC) is derived from two-frequency observations (1575.42 and 1227.60 MHz) of the Global Positioning System (GPS). Two-dimensional maps of TEC perturbations with high temporal and spatial resolutions are derived from using nearly 1,000 GPS receivers of Geographical Survey Institute (GSI) GPS network in Japan. We investigate TEC perturbations, which have been known as traveling ionospheric disturbances (TIDs). Activity of nighttime TID shows semiannual variation with summer and winter maxima, although the summer maximum is larger than winter. The nighttime TID propagates southwestward. For daytime, TID is active in winter. The TID propagates equatorward.

国土地理院は日本国内に1000機以上のGPS受信機を設置し、常時観 測を行っている。平均受信機間距離は約25kmである。この様に多数 の受信機を広範囲にわたって密に設置しているのは、世界でも類を 見ない。我々は、この国土地理院GPS観測網で得られたデータから GPS衛星と受信機間の全電子数(Total Electron Content; TEC)を 計算し、日本上空におけるTECの水平2次元データを得た。このTEC データを用いることにより、電離圏中を伝搬する移動性電離圏擾乱 (Traveling Ionospheric Disturbance; TID)に起因するTEC変動を 捉えることができる。1998年5月と1999年8月に行われたFRONTキャ ンペーンでは日々変動は大きいものの、夏期夜間において南西方向 に伝搬するTIDが頻繁にみられることが明らかになった。
本研究では、GPSから得られたTECデータを用い、TIDの統計的性質 を明らかにする。GPSデータは定常的に得られており、統計解析に 適している。2000年における夜間TID活動度の季節変化を図に示 す。ここで、TIDの活動度は、緯度経度3度四方の領域内及び1時間 内のTEC変動の標準偏差をTECの絶体値で規格化したものとする。 TID活動度は、夏期に極大、冬に第二極大となる半年周期変動を 示す。夏期における極大の時期は、緯度が高くなるにつれて遅く なること分かる。一方、日中におけるTIDの活動度は冬に極大と なり、他の季節の活動度は低い。日中のTIDは南向きに伝搬する ものが多く、従来イオノゾンデやレーダーを用いて得られた結 果と一致する。日中では電子密度が高く、大気重力波によって 振動する中性大気の運動はイオン効力を受け、大気重力波は減衰 する。磁力線平行方向の中性大気の運動はイオン効力を受けない ため、南向きに伝搬する大気重力波が最も減衰を受けにくい。 従って、日中では南向きに伝搬するTIDが最も頻繁に観測される のだと考えられる。これに対して、夜間ではE領域の電子密度が 小さくなるため、F領域において分極電場がつくられるようにな る。この分極電場によって電離層の不均一がつくられると考えら れる。特に、GPSで観測される北西から南東にのびるTECの構造は perkins不安定の理論と一致する。本研究では、TIDの統計的性質 を明らかにし、TIDの成因について議論する。