ILASで観測された夏期の南半球の極域中間圏雲について

*佐藤 佳宏[1], 中島 英彰[2], 横田 達也[2]
笹野 泰弘[2]

科学技術振興事業団[1]
国立環境研究所[2]

Polar Mesospheric Clouds Observed with the Improved Limb Atmospheric Spectrometer in the Southern Hemisphere

*Yoshihiro Sato[1] ,Hideaki Nakajima [2],Tatsuya Yokota [2]
Yasuhiro Sasano [2]
Japan Science and Technology Corporation[1]
National Institute for Environmental Studies [2]

ILAS onboard the sun-synchronous polar orbiting satellite ADEOS made measurements from November 1996 to June 1997. ILAS observed polar mesospheric clouds (PMCs) in the southern hemisphere high latitude region during the 1996-1997 summer. The ILAS was equipped with both the visible and the infrared spectrometers. PMCs were found from the atmospheric extinction profiles obtained with the visible spectrometer, Average cloud peak altitude is 81.8 km. The component of PMCs was infrared to contain water-ice by comparing the observation spectrum of the infrared spectrometer and the Mie scattering theory calculation. The effective radius of PMCs was estimated to be 62 nm from the infrared spectrometer, and also estimated to be 82 nm from the visible spectrometer.

夏至を中心とした3ヶ月の間、緯度60度以上の極域の高度約80kmに おいて、長さ数100km厚さ数kmの薄い雲が発生する。この雲は19世 紀末に発見されて以後、夜光雲(Noctilucent Cloud; NLC)として 地上から観測が続けられてきた。1969年には極軌道衛星OGO-6によ って宇宙からも観測され極域中間圏雲(Polar Mesosphere Cloud ; PMC)と名付けられた。その後SME(1986)、WINDII(1995)、POAMII (1997)、SAGE-II(2000)、HALOE(2001)などの衛星搭載センサーで 観測された。また、PMCは1996年に打ち上げられたADEOS衛星搭載 の太陽掩蔽大気観測センサーILASにおいても観測が確認された。 このPMCやNLCの発生時期・発生期間・発生高度などの研究は地上 観測を中心古くから行われており、既に大きな成果が上がってい る。しかしながら、PMCを構成する雲粒の成分や粒径などの研究は、 その発生高度が高い為にあまり多く行われていなかった。今回は、 ILASによるPMC観測で得られたデータを用いて、PMCの成分と粒径 について推定する。ILASには、可視センサーと赤外センサーが搭 載されており、それぞれ753-784nmの可視域と6.21-11.77μmの赤 外域をカバーする。その可視センサーにより1997年の1月に南半球 において観測された。観測は可視センサーにより行い光学的厚み の高度プロファイルを作成した。その観測されたPMCは 82.5 km にピークを持っていた。次に赤外センサーを用いて各高度ごとの スペクトルを作成した。そのスペクトルは可視センサーでPMCの ある高度だけ、10μmよりも短波長側に特徴的な吸収を持ち、これ は氷のスペクトルと一致した。この事からPMCの成分が氷である事 が確認された。次にPMCの粒子半径を推定する。この粒子半径は基 本的にMie散乱理論による理論スペクトルとILAS観測スペクトルの 比較により推定する。今回は主に赤外センサーを用いる推定と、 可視センサーを用いる推定を行った。赤外センサーを用いた推定 は、PMC高度における赤外センサーのスペクトルを可視センサー 780nmの光学的厚みでノーマライズしたものを、異なるモード半径 を仮定した理論スペクトルと比較するものである。Mie理論計算に はPMC成分として氷を仮定し粒径分布にはLog Normal Distribution (LND)を用い、LNDのパラメータにはRush[D. W. Rush, G. E. Jensen, J. Geophys. Res. 96, 12933, 1991]による 値であるs=1.4を用いた。この解析の結果、有効半径が 62 nmであ ると推定された。続いて可視センサーを用いた推定では、可視 753 - 784 nm の観測波長範囲のうち、酸素分子の吸収を除いた範 囲で波長に対する傾きを最小二乗法で求め、そこから波長依存性 パラメータαを求めた。そのαとMie理論計算で異なるモード半径 を仮定して求めたαとを比較した。この結果からこの有効半径は 82 nm であると推定された。これらの値は、POAM-II や HALOE な ど、最近報告された衛星観測によるものとほぼ同じ結果であった。