大循環モデル中のMLT領域大気潮汐波の減衰
*吉川 実[1], 宮原 三郎[2]
九州大学大学院理学府[1]
九州大学大学院理学研究院[2]
Dissipation of Tides at MLT Region in a GCM
*Minoru Yoshikawa[1]
,Saburo Miyahara [2]
Kyushu University, Graduate school of Sciences[1]
Kyushu University, Facukty of Sciences[2]
Dissipation of tides in the MLT region of a General Circulation
Model simulation is analyzed. In the GCM migrating diurnal tide
has a maximum amplitude around 100 km height consistent with
observations. Momentum flux associated with internal gravity
waves in the mode is modulated by tidal waves, and migrating
with tides. The momentum flux divergence has a tendency to suppress
the tidal amplitude above 100km height. However, its effect is
not enough to realize the realistic tidal amplitude distribution.
It is shown that the main cause of tidal dissipation in the
GCM to realize the realistic tidal amplitude in the MLT is convective
adjustment used in the model.
九州大学中層大気大循環モデル(高解像度版,T42L250) によりシミュレートされた潮汐振動の振る舞いについて報告する.この大循環モデルは地表面から高度約150kmを高度分解能約500m,水平解像度1000kmで表現する.このモデル中の潮汐波と内部重力波の相互作用を解析した.その結果,東西波数5以上の内部重力波に伴う運動量fluxは潮汐波により変調を受け,運動量flux並びにその発散も,migrating tidesと同じ周期で変動し,西進する成分が存在することが明らかになった.高度100km以上の低緯度では,内部重力波に伴う運動量輸送は1日潮汐波を減衰させる傾向を持つが,その大きさは1日潮を観測値と同様に減衰させるほどには大きくなく,等価なレーリー摩擦係数に換算すると2.6E-06/sec程度の大きさとなる.
しかし,現実大気で観測されているような高度100km付近での1日潮振幅の極大はこのGCMでも再現されており,モデル中で潮汐波の十分な散逸が起こっていることを示している.モデルに含まれる鉛直拡散係数は,各グリッド点でのリチャードソン数により変動するが,MLT領域では,帯状平均値は最大でも,3.4E+00m**2/secであり,潮汐波を観測値と同様に減衰させるには不十分である.
このモデル中で潮汐波の散逸に大きな役割を果たしているのは,対流調節であることが詳しい解析により明らかとなった.対流調節に伴う熱の鉛直輸送は等価なニュートン冷却係数に換算すると3.0E-06/sec程度であり,潮汐波を減衰させるには不十分である.しかしながら,温度の鉛直混合による温度場の変形に潮汐波が追従することにより,最終的には,観測値と同様な振幅に落ち着くことが,対流調節を導入した線形モデル計算により確かめられた.この場合の等価なニュートン冷却係数は最大でも8E-5/sec程度である.この等価なニュートン冷却係数を導入し対流調節をはずした線形モデルの計算により,この場合には十分な散逸が起こらないことを確かめた.この計算結果は対流調節の効果を等価なニュートン冷却係数で見積もることは不可能であることを示している.
現実大気では,このモデルでは表現できない短波長の内部重力波が含まれるが,このモデルの解像度の範囲内では,MLT領域で潮汐波を減衰させる働きをしているのは,内部重力波に伴う運動量輸送ではなく,潮汐波と内部重力波が複合した場での対流不安定による鉛直混合によることが示された.
一般によく行われている潮汐波の線形計算では,1E+02m**2/secのオーダーの鉛直渦拡散係数を下部熱圏に与えることにより,現実に観測されている大きさの潮汐波の振幅を得ているが,これは現実大気中での対流不安定による鉛直混合の過程を渦粘性で表現したものと解釈できる.