地磁気嵐発達の要因
*長妻 努[1]
通信総合研究所 電磁波計測部門[1]
The Cause of Geomagentic Storms
*Tsutomu Nagatsuma[1]
Communications Research Laboratory, Applied Research and Standards Division[1]
We have analyzed Nov. 8, 1998 storm event, since the big difference
between Em and Ey exists during 6 hours. The enhancement of Ey
terminates first, and Em continues to enhance more than 6 hours
after that. Although the variation of the storm (SYM-H) corresponds
to Ey, that of the magnetospheric convection (PC) corresponds
to Em. This shows that the development of the storm terminate
although the magnetospheric convection still enhances. This result
suggests that the development of magnetic storms is independent
from enhanced convection and the magnetic storm is directly caused
by the enhancement of Ey in the solar wind.
地磁気嵐は、長年にわたって研究が行なわれてきたにもかかわら
ず、その発達・消長のメカニズムが明らかになったとは言い難い。
磁気嵐の要因としては、サブストームが頻発することで内部磁気圏
に高エネルギー粒子が注入されて発達するという考え方と、強い磁
気圏対流が直接高エネルギー粒子を内部磁気圏へ注入し磁気嵐を発
達させるという考え方がある。また、サブストームは磁気嵐の発達
をむしろ抑制する要因であるとの考え方もある。
我々は今回新たに、「磁気嵐の発達はEyが直接制御していて、磁
気圏対流の発達とは独立である。」という仮説を提出したい。これ
までの研究によると、磁気圏対流はmerging electric field(Em)
と良い相関があり、IMFのBy成分によってもドライブされている。
一方で磁気嵐(Dst)の発達は太陽風のEy成分と良い相関があると
言われており、両者は太陽風に対して異なる応答をしていることを
示唆している。ただし、通常の太陽風においてはEmとEyの差は小さ
く、磁気圏対流と磁気嵐の相関パラメータの違いが実際に両者の応
答の違いを反映しているかどうかを議論するのは困難であった。し
かし、ICME等に伴う特殊な太陽風条件においては、EmとEyが大きく
異なる場合が存在しうる。この観点から1995年以降のデータをサー
ベイし、EmとEyが約6時間近くにわたって大きく異なっていた1998 年11月8日の磁気嵐について解析を行なった。太陽風のEm,Eyは前日
の22時頃から増加し、0時以降6時頃まで5mV/mのレベルで推移して
いた。その後、Bzが南向きから北向きに転じ、Eyは弱まったが、By が5時頃から12時頃まで40nTに達していたため、Emは12時頃まで引
き続き5mV/m以上のレベルを継続していた。よって、6時から12時頃
までの約6時間にわたってEmとEyの差が大きな状態が継続した。
SYM-H(Dst)指数によると、磁気嵐は前日の23時頃から0630UT頃ま
で発達し、その後decayしている。また、ASY-D指数によると、磁気
嵐の極小付近及び回復に転じた7時過ぎに大きなサブストーム活動
があったことが示されている。一方、磁気圏対流の指標であるPC 指数は5-9時にかけてサチュレーションを起こしているが、基本的
にはEmに対応した変動を示しており、磁気圏対流が12時過ぎまで発
達していたことがわかる。
これらの観測事実は、1) 磁気圏対流が発達していても、磁気嵐が
decayすること。2) サブストームが発生しても、磁気嵐がdecayして
いること。3) 磁気嵐の発達はEyと良い相関にあることを示してい
る。2)、3)の結果は過去の研究からも明らかにされてきていること
だが、1)は、磁気嵐の発達が磁気圏対流の発達とは独立の現象であ
り、磁気嵐が直接太陽風のEyにドライブされている可能性を示唆し
ている。
さらに最近の解析結果によると、極冠電位差はEmに対して線形に
応答するのではなく、Emの値が大きくなるにつれてサチュレーショ
ンすることが示されている(長妻、2001)。仮に、磁気圏対流が磁
気嵐のドライバだとした場合、対流がサチュレーションを起こす
と、磁気圏へのエネルギー注入率もサチュレーションし、磁気嵐の
発達もサチュレーションすることが期待される。しかしながら、磁
気嵐(Dst)にはサチュレーションの兆候は見られない。このこと
は、磁気嵐の要因が磁気圏対流の要因とは独立であるという仮説を
サポートしている。