三宅島火山の山頂陥没(2000年7月8日)に先行した熱水系の変化
―自然電位観測からの推定―
Jacques Zlotnicki[1], *笹井 洋一[2], 西田 泰典[3]
Paul Yvetot[1], 上嶋 誠[4], 小山 崇夫[4], 高橋 優志[4]
浅利 晴紀[4]
クレルモンフェラン地球物理研究所[1]
東京都[2]
北海道大学理学研究科[3]
東京大学地震研究所[4]
Precursory hydrothermal changes prior to July 8, 2000 Miyake-jima
(Japan) Eruption as revealed by Self-Potential changes
Jacques Zlotnicki[1]
,*Yoichi Sasai [2],Yasunori Nishida [3]
Paul Yvetot [1],Makoto Uyesima [4],Takao Koyama [4]
Yuji Takahashi [4],Seiki Asari [4]
Observatoire de Physique du Globe de Clermont-Ferrand[1]
Tokyo Metropolitan Government Office[2]
School of Science, Hokkaido University[3]
Earthquake Research Institute, The University of Tokyo[4]
Prior to July 8, 2000 Miyake-jima eruption an SP mapping made
inside the summit caldera revealed negative anomalies where positive
ones were expected because of the thermal activity in the last
tens of years. The one month sampling of the SP along a permanent
1 km long line set across the caldera suggested an acceleration
of the SP signals during the 3 months preceding the eruption.
The comparison between 1995 and 2000 survey showed a global increase
of the hydro- thermal activity beneath the volcano. Its source
could have been 250 m to the south of the sink-hole at a depth
of 1300 m or less.
三宅島火山の電磁気的手法による活動監視の一環として,我々は
1999 年5月に山頂の八丁平カルデラにおいて,直流法による比抵
抗測定装置を設置した.その際に全長1kmにわたってほぼ等間隔
に8点の電極を埋め,自然電位(SP)の測定も行えるようにした.
99年5月以降毎月に1回,この電極間の電位差を測定して来た.こ
のSP測線は7月8日の山頂水蒸気爆発に伴って生じた陥没孔を,ほ
ぼ東西に横断し,かつ東西の両端の2電極は陥没孔の外側に位置
して,残り4電極が内側に位置する,という配置であったため,
将来の陥没孔の生成を示唆する,特徴的なSP変化を観測できた.
我々は山頂陥没の4日前に山頂カルデラ内で,自然電位の面的な測
量を行った.また7月12日には村営牧場付近から鉢巻林道を南側に
回り,坪田無線局付近までのSP測定も行った.
(1) 八丁平カルデラのSP分布
7月4日のSP測定はPb-PbCl2電極を用い,25m間隔,駐車場付近の
基準点からエナメル線を延ばして測定した.1940年噴火のスコリ
ア丘(枡形山)付近と大穴火口の東側に広がる(広義の)雄山火口
に,−225mVと−150mVの強い負異常が存在する.後者はくぼみ地形
で雨水の浸透に伴うものと解釈されるが,前者は常時噴気を出して
いる熱水の上昇域であって,サウナにつながるSPの正異常が期待さ
れる場所である.残念ながらこの場所では2000年以前にSP測量が行
われておらず,この負異常がいつから存在するのか明らかでない.
全磁力や重力観測から推定されている,山頂陥没に先行した空洞形
成に伴い,地表水の吸い込みが起こっていて,電位が負になってい
た可能性が強い.
(2)1995年10月と2000年7月の間の変化
2000年7月のSP測定と同じ測線について,1995年10月の測定と比
較した.その結果,八丁平草原付近,雄山展望台付近,鉢巻林道南
側において,それぞれ最大で+60mV,150mV,40mVといずれも電位が
上昇しているのが判った.この変化が共通の電流源によるものとす
ると,雄山813mピークの南260mで深さ1300mより浅い位置にソース
を置けば良い.この位置は全磁力の連続観測で,1996年中頃から始
まった熱消磁域とほとんど一致する.
(3) 将来の陥没孔を横断するSP測定
山頂カルデラ内に設置した東西1kmのSP測線の西端E8を基準とし
て,各電極の電位変化を調べた.1999年5月以来1年余の期間で,
(1)99年6月−12月:ゆっくり減少,(2)2000年1月−3月:ゆっくり
増加,(3)4月−7月:急激で大きな変化,が見られる.2000年に入
ってから,熱水対流系の上昇流が強まり,特に4月以降顕著になっ
たらしい.E6とE3は将来の陥没孔のすぐ内側に位置するが,上述の
変化の振幅はこの両電極で最も大きい.即ち最初の陥没孔として姿
を見せた領域は雨水・熱水を通しやすい構造を持っていた,と言え
る.