火星大気子午面循環における運動量バランスへの熱潮汐波の寄与
*高橋 芳幸[1], 藤原 均[1], 福西 浩[1]
東北大学大学院理学研究科[1]
Contributions of the Thermal Tides on the Momentum Balance of the Meridional Circulation in the Martian Atmosphere
*Yoshiyuki Takahashi[1]
,Hitoshi Fujiwara [1]
Hiroshi Fukunishi [1]
Department of Geophysics, Tohoku University[1]
In order to understand the meridional circulation of the Martian
atmosphere and the contribution of the thermal tides on the meridional
circulation, we have investigated zonal momentum balance in the
Martian atmosphere using a Mars atmosphere general circulation
model. We performed a numerical simulation under the perpetual
equinox condition. The result indicates that the diurnal migrating
tide is the dominant contributor on the Eliassen-Palm (EP) flux
divergence. It is implied that the large amplitude of this wave
and the short time constant of the radiative process in the Martian
atmosphere cause the large EP flux divergence.
我々は、これまでに火星大気大循環モデルを用いて、理想的な春分条件に
おける火星大気中の熱潮汐波の基本的なパラメータと熱潮汐波が子午面循
環や平均東西風に与える効果について調べてきた。その結果、熱潮汐波の
基本的なパラメータに関しては高度約 60 km 以下において過去の線形計
算から得られている結果と整合的であった。また、熱潮汐波を含む計算と
熱潮汐波を含まない計算の結果を比べることにより、春分条件では熱潮汐
波の存在が低緯度の平均東西風や子午面循環を駆動する上で重要であるこ
とを示した。本研究では、火星大気大循環モデルの結果の解析から東西方
向の運動量バランスを調べることで、火星大気子午面循環の成因を理解
し、その中での熱潮汐波の寄与を理解することを目的とする。
本研究で用いたモデルはプリミティブ方程式を用いたスペクトルモデルで
ある。水平分解能は 11.25 度 X 11.25 度であり、地面から高度約 90 km までの間に 25 層を含む。本モデルは Viking Lander によって観測
された地表面気圧における潮汐成分を良く再現する。
設定した計算条件はこれまでと同じく、季節は理想的な春分条件、ダスト
量は火星の典型的な条件(可視光における光学的厚さ 0.3 )とした。
Transformed Eulerian Mean (TEM) の枠組みにおける東西方向の運動量
バランスについて調べた結果、高度約 20 km 以下ではコリオリ力と
Eliassen-Palm (EP) flux の発散がほぼつり合っていた。それ以上の高
度では子午面循環による運動量の移流と EP flux の発散がおおよそ同じ
程度の寄与があり、これらの 2 つの力とコリオリ力がつり合っていた。
さらに、西向きに伝搬する 1 日周期で東西波数 1 の波動(以下
diurnal migrating tide )による、東西風加速・減速の効果を調べるた
めに、この波動による EP flux の発散を求めた。その結果、EP flux の
発散は高度約 20 km 以下では東向き加速、約 20-40 km では西向き加
速、約 40-65 km では東向き加速、それ以上の高度では西向き加速という
ように、高度方向に東向き加速と西向き加速を交互に繰り返すような構造
を示していた。この構造の周期はおよそ波動の鉛直波長に等しい。これ
は、放射などの散逸過程によって鉛直伝搬する波動が減衰と励起を繰り返
すためであると考えられる。また、高度約 70 km 以下では diurnal migrating tide がほとんどすべての EP flux の発散を担っていること
がわかった。本モデルで得られた EP flux の発散の分布は、Miyahara [1981] が地球の中間圏・下部熱圏においてレイノルズ応力を用いて示し
たものと同種であると考えられるが、火星においてははるかに低高度にお
いて重要な効果を持つ。火星においてより低高度で重要な効果を持つ理由
としては、励起される熱潮汐波の振幅が大きいことや放射過程の時定数が
非常に短いことが考えられる。
本講演では、この東西方向の運動量バランスが季節やダストなどの条件に
よってどのように変化するかについても議論する予定である。